前の文章の最後に、
「大きく踊れる人が、小さく踊れる」
と書きました。
その場に合わせて、自分の踊りを変えられる人。
では、どうすれば、そんなふうに踊れるのでしょう。
私は、その答えの一つが、
「頑張らない」こと
なのではないかと思っています。
トッププロは頑張らない
私は以前、
「トッププロは頑張らない」
という言葉を聞いたことがあります。
トッププロは、踊りを楽しんでいる。
楽しんでいるのに、成績がいい。
ずるい人たちだ。
そんな話でした。
もちろん、それが「努力しない」という意味だとは思いません。
あの人たちは、私たちには想像できないほどの練習を積んでいるはずです。
でも、フロアに立ったその瞬間には、必死に力んで、何かを見せつけようとしているわけではない。
楽しんでいる。
だから、いい踊りになる。
そういうことなのだと思います。
テニスで気づいたこと
ダンスの話ではありませんが、思い出すことがあります。
私は大学時代、テニス部にいました。
レギュラーにはなれない、へたくそでした。
そして、頑張ることしかできませんでした。
頑張る。
すると、ますます試合で勝てなくなる。
だから、時間をかけて、とても疲れる練習をする。
でも、ちっとも上手くならない。
だから、また頑張る。
まさに、ドツボです。
そんなある日、気づいたことがあります。
普通に打ち合っていると、失敗ばかりする。
ところが、ボールを相手のコートに渡すとき、つまり、ただ球を返してあげるときには、なぜかいい球が行くのです。
不思議に思って、試しに、その同じ感覚で打ち合ってみました。
すると、いい具合にラリーが続きました。
あれこれ考えない。
集中しようともしない。
むしろ、何も考えない方が、いい結果が出る。
今思えば、そのとき、
頭はクリアで、
心の負担を手放していて、
身体はリラックスしていたのだと思います。
いい球を打とうとした瞬間に、頭も、心も、身体も、固くなっていたのでしょう。
ダンスは、頑張る以前に楽しかった
ダンスは、テニスとは違いました。
私は、少し変なテニスプレーヤーでした。
勝ちたい。
でも同時に、美しく、合理的な動きも求めていました。
ところが、美しい動きは、必ずしも試合の勝ち負けに直結しませんでした。
一方、ダンスでは、美しく合理的に動くことが、そのまま評価にもつながっていました。
しかも、テニスとダンスは動きが似ていたので、素人にしては結構上手くできたのです。
上手くできるから、のびのびできる。
のびのびできるから、リラックスする。
リラックスするから、上手くなる。
テニスのドツボとは、ちょうど逆の回り方でした。
そして何より、頑張る以前に、楽しかったのです。
だって、女性と踊るなんて、日常生活ではありえません。
頑張る以前に、楽しい。
そして、頑張るにしても、相手のために頑張るのは、とても幸せなことでした。
テニスの頑張りは、苦しさから抜け出そうとする頑張りでした。
ダンスの頑張りは、楽しさの先にある頑張りでした。
同じ「頑張る」でも、ずいぶん違います。
ありのままの自分のダンスでいい
とはいえ、ダンスにも力みはあります。
ありのままの自分のダンスでいいのです。
もちろん、ほんの少しの背伸びは良いと思います。
少し上を目指すから、踊りは育っていきます。
でも、自分にできない踊りを、無理して踊ろうとすると、破綻するのは当然です。
そして、それは自分一人の問題では終わりません。
一緒に踊る相手にも、負担をかけます。
自分でコントロールできない動きは、周りの人にとっても危ない。
できないことを、できるように見せようとする。
それが、力みの一つなのだと思います。
もう一つの力みもあります。
前の文章で、壁際に立つ人のことを書きました。
理想はある。
でも、理想どおりに踊れない。
だから、自分には才能がないと思い込む。
でも、本当にそうなのでしょうか。
才能がないのではなく、才能を発揮できていないだけなのではないか。
それを邪魔しているのは、緊張だったり、頑張りだったりするのかもしれません。
へたくそだったテニス部の私でも、力を抜いて球を返したときには、ちゃんとラリーが続いたのです。
上手くならなければ踊ってはいけない、と思う必要はありません。
練習と、踊る瞬間
では、努力しなくていいのか。
そうではありません。
練習では、できないことを少しずつ、できるようにしていく。
それは大切なことです。
でも、踊るその瞬間には、それを手放す。
十分に身につけたものを、その場所、その音楽、その相手に合わせて使う。
練習で積み重ねたものは、力まなくても、ちゃんと身体に残っています。
だから、踊る瞬間には、信じて手放していい。
そういう姿の方が、むしろ自然で、格好いいのかもしれません。
頑張らなくていい
「頑張る」という言葉は、どこか日本人らしい言葉なのかもしれません。
私たちは、何かに取り組むとき、つい「頑張ります」と言います。
私も言います。
でも、ときどき思うのです。
「頑張る」は、へたくその免罪符になっているのではないか。
頑張っている。
だから、まわりも納得する。
本人も納得する。
頑張っているのだから、仕方がない。
でも、結果は出ない。
テニス部の私が、まさにそうでした。
だから、頑張ることを手放す。
ただし、私が手放したいと思う「頑張り」は、努力そのものではありません。
「失敗してはいけない」
「上手く見せなければならない」
と、自分を固くする頑張りです。
相手のための頑張りは、手放さなくていい。
楽しさの先にある頑張りも、手放さなくていい。
ダンスでは、
無理に頑張らなくていい。
いや、
「頑張ります」と言いながら、実際には力を抜いてリラックスするくらいがいい。
頭をクリアにして、
心の負担を手放して、
身体をゆるめる。
そして、楽しむ。
力を抜いたダンス
トッププロが、楽しいのに成績がいいのだとしたら、
私たちも、楽しんでいいのです。
いや、楽しんだ方がいい。
力を抜いているから、その場に合わせて、踊りを変えることができる。
大きく踊れる人が、小さく踊れるのも、きっとそのためです。
ワールドスタイルダンスは、競技だけではなく、楽しむことを大切にするダンスだと書いてきました。
それは、どこか「手を抜いたダンス」のように受け取られることがあるかもしれません。
でも、そうではないのだと思います。
力を抜いて、その場、その音楽、その相手に合わせて踊れる。
それは、とても高度なことです。
力を抜いたワールドスタイルダンスは、案外、ダンスとしての「最高級品」なのかもしれません。
笑顔で、
力を抜いて、
踊りましょう。
