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踊るということ― ワールドスタイルダンスの教師が考えたこと

第一編

ワールドスタイルダンスとは何だろう

輝河龍樹

ワールドスタイルダンスは、社交ダンスです。

1962年にまとめられた「ワールド・ダンス・プログラム」を源流とし、AJDT/IDCでは、イングリッシュスタイルと区別するために「ワールドスタイル」という名称を用いています。

競技だけではなく、誰とでも、どこでも、ダンスそのものを楽しむことを大切にしています。

説明できない

私はワールドスタイルダンスの教師ですが、自分がやっているダンスのことを説明するのは、実はなかなか骨が折れます。

日本で「社交ダンス」といえば、

「ああ、あの、男女がくっついて踊る、あれね」

と、だいたい分かってもらえます。

ところが、「ワールドスタイルダンス」と言っても、まず分かってもらえません。

カルチャーセンターで講座を開くときもそうでした。

「ワールドスタイルダンスの講座を開きたいんです」

と話すと、まず、

「ワールドスタイルダンスとは何ですか」

から始まります。

「男女が向かい合って……」

と、相手の様子をうかがいながら説明します。

すると、当然、

「社交ダンスと何が違うのですか」

と聞かれます。

ここで、いつも困っていました。

「社交ダンスです。でも、日本で一般に社交ダンスと呼ばれているものとは、少し違います」

という、なんとも奇妙な説明をすることになります。

社交ダンスだけど、社交ダンスではない。

言っている私自身もややこしい。

聞いている人は、もっと混乱します。

そこで、

「私たちは、ワールドスタイルとイングリッシュスタイルという言葉を使って区別しています」

と言うと、今度は、

「イングリッシュスタイルって何ですか」

と聞かれます。

そうなると、今度はイングリッシュスタイルの説明から始めなければなりません。

説明しようとするほど、説明しなければならない言葉が増えていきます。

そこで私は、さらに説明しようとして、

「社交ダンスに似ていますが、ホールドを張ったり、大きく動いたりすることよりも、誰とでも気軽に踊れて、楽しむことを大切にするダンスなんです」

などと、四苦八苦しながら言い直します。

でも、なかなか納得してもらえません。

「でも、それって、やっぱり社交ダンスですよね」

と言われます。

私は、うまく答えられませんでした。

そして最後には、

「分かりました。私は分かりましたが、講座の案内を読んだ人には分からないと思いますよ」

と言われました。

なるほど。

カルチャーセンターの企画担当者が私に訊くことは、そのまま、お客様から受付の方が訊かれることでもあります。

それなら、担当者が私に細かく確認するのも当然です。

ワールドスタイルダンスの始まり

では、ワールドスタイルダンスとは、そもそもどこから始まったのでしょう。

AJDT/IDC国際ダンス本部の説明によると、その源流は1960年代にさかのぼります。

1962年、アムステルダムで開催されたダンス国際評議機関ICBD、現在のWDCの第2回コンファレンスにおいて、

「競技ばかりではなく、一般のダンスにもっと関心を持つべきである」

と議決されました。

その後、小委員会が結成され、英国のアレックス・ムーア、デンマークのカール・カールセン、西ドイツのゲルド・ハードリッヒ、オランダのウイン・ボネルらが委員となり、

「誰とでも、どこでも踊れるダンス」

として、最初のワールド・ダンス・プログラムが編集されました。

その後、ヨーロッパのダンス教師協会によって、ワールド・ダンス・カリキュラムへと発展していきます。

そこでは、競技やデモンストレーション、検定試験を目的とするレッスンだけでなく、生徒のニーズに合わせ、生徒のペースでダンスを教えることが重視されています。

また、ボールルームダンスの規則的な技術事項や競技志向だけにこだわらず、即興性・実用性・大衆性を大切にし、生徒の創造性を引き出し、その能力を伸ばすことに主眼が置かれています。

簡単に言えば、

競技だけではなく、もっと日常の中でダンスを楽しもう。

そういう方向へ、ダンスの世界を広げていこうとする動きだったのだと思います。

その考え方を日本に取り入れ、広げてきたのが、AJDT/IDC国際ダンス本部の助川友朗前理事長や宮木会長の世代でした。

海外では何と呼ぶのか

この疑問は、ずっと私の中に残っていました。

そこで、生前の助川先生に直接訊いてみました。

「ワールドスタイルダンスという言葉が、日本ではほとんど浸透していません」

「どう説明したらいいのでしょうか」

「そもそも海外では何と呼ばれているんですか。ソーシャルダンスでしょうか。インターナショナルダンスでしょうか」

すると、こんな答えが返ってきました。

「海外のインターナショナルダンスは競技ダンスを指す言葉だよ」

そして、

「ワールドスタイルダンスは日本だけの呼称です。海外では単にダンス。つまり、海外でダンスといえば、我々がやっているような踊りなんだよ」

という話でした。

本来は「ワールドスタイルダンス」という言葉さえ必要ない。

単に、

Dance

でいい。

もしヨーロッパで同じような講座を開くなら、その名称は、おそらく「ダンス講座」なのでしょう。

私は長い間、

「日本では、ただ『ダンス』と言っても何のダンスか分からない。だから、日本で紹介するために『ワールドスタイルダンス』という名前をつけたのだろう」

と理解していました。

似ているのではなかった

ところが、この文章をホームページに掲載するにあたり、宮木先生に内容を確認していただいたところ、そこは少し違うと教えていただきました。

宮木先生は、

「ワールドスタイルダンスは社交ダンスです」

と言われました。

そして、ワールドスタイルという名称は、社交ダンスとは別のダンスであることを示すためにつけたものではなく、

イングリッシュスタイルと区別するためにつけた名称

なのだそうです。

イングリッシュスタイルとは、イギリスで体系化され、世界中に広まった競技ダンスのスタイルです。インターナショナルスタイルとも呼ばれ、日本で「社交ダンス」として教えられているものの多くは、このスタイルにあたります。

さらに宮木先生は、

「社交ダンスとは、本来、社交のためのダンスです」

とも言われました。

なるほど。

ここで、ようやく私は気づきました。

ワールドスタイルダンスが分かりにくいのではない。

日本で「社交ダンス」という言葉が、競技型のダンスと強く結びついてしまっていることが、ものごとをややこしくしているのではないか。

だから私は、

「社交ダンスに似ていますが……」

などという説明をしてしまっていた。

でも、本当は逆でした。

似ているのではない。

ワールドスタイルダンスが、社交ダンスなのです。

では、社交ダンスとは何だろう

こうなると、今度は別の疑問が出てきます。

そもそも「社交ダンス」とは何なのでしょう。

宮木先生が言われたように、文字どおり考えれば、

社交するためのダンス

です。

人と出会う。

人と踊る。

音楽を共有する。

同じフロアにいる人たちと、気持ちよく時間を過ごす。

それが「社交」という言葉から、まず思い浮かぶ姿でしょう。

ところが日本では、「社交ダンス」と聞いたとき、競技ダンスに近いものを思い浮かべる人が少なくありません。

華やかな衣装。

大きなホールド。

広い歩幅。

スピード。

ピクチャーポーズ。

そして競技会。

日本では「社交ダンス」という言葉と、競技型のダンスのイメージが非常に強く結びついてきました。

そのため、

社交ダンスだけど、日本で言う社交ダンスではない。

などという、妙な説明が必要になってしまう。

どうやら、私が説明に苦労していた原因の一つは、ここにあったようです。

「本流」とは何なのか

ワールドスタイルダンスは、ときどき、

「社交ダンスから派生したもの」

「ちょっと変わった種類の社交ダンス」

あるいは、

「本流とは違うダンス」

のように受け取られることがあります。

でも、今回あらためて考えてみて、私はむしろ逆なのではないかと思うようになりました。

本流とは何なのでしょう。

少なくとも「源流」をたどれば、ダンスは競技やデモンストレーションのためだけに存在してきたものではありません。

楽しいから踊る。

求愛のために踊る。

祈りのために踊る。

祝いのために踊る。

人と人が集まって踊る。

そうやって、ダンスは人の暮らしの中にありました。

もちろん、日本にも昔から踊りはありました。

祭りでも、盆踊りでも、人は楽しみ、祈り、集うために踊ってきました。

一方、ボールルームダンスは欧米から日本に入ってきたダンスです。

日本ではどうしても、

「格好よく踊る」

「正しく踊る」

ことが大切にされがちです。

もちろん、それもダンスの楽しみ方です。

競技に取り組むことも、人に見せるために踊ることも、技術を磨くことも、それぞれに大きな価値があります。

私自身、それを楽しみたいと思っています。

でも、それだけがダンスではない。

うまく踊れなくてもいい。

競技に出なくてもいい。

人に見せるためでなくてもいい。

ただ、音楽が流れたから踊る。

誰かと一緒に踊ることが楽しいから踊る。

一人で身体を動かすことが心地よいから踊る。

そして、人と同じ場所を共有しながら、お互いに気持ちよく踊る。

ワールドスタイルダンスが大切にしている、

「誰とでも、どこでも踊れる」

という言葉には、そういう意味も含まれているのではないかと、私は思います。

競技を否定するのではない。

上手くなることを否定するのでもない。

デモンストレーションを否定するのでもない。

ただ、そのもっと手前にある、

「ダンスを楽しむ」

という価値を忘れない。

そして、

「人と踊る」

ということを忘れない。

いや、もっと単純に言えば、

「社交する」

ということを忘れない。

それが、ワールドスタイルダンスなのだと思います。

いや。

宮木先生の言葉を借りるなら、もっと単純です。

ワールドスタイルダンスが、社交ダンスなのです。

踊りましょう

とはいえ、こんな説明を延々としても、やっぱりなかなか伝わりません。

そんな私に、生前の助川先生が言いました。

「単純に、『ダンスを踊りましょう!』だけで構わないと思います」

この文章を書きながら、あらためてその言葉を思い出しました。

そして、もう一つ思い出したことがあります。

私が月に一回ほど習っているボールルームダンス、いわゆる社交ダンスの先生の口癖は、

笑顔で、

「踊りましょう」

なんです。

「踊りましょう」

「はい、踊りましょう」

ただ、笑顔でそれだけ。

でも、その言葉を聞くたびに、

「ああ、この先生は、本当にダンスを楽しんでいるんだろうな」

と思います。

こちらも、思わず笑みがこぼれます。

これは私の直感ですが、この先生には、ワールドスタイルダンスとは何かを難しく説明する必要なんてないのかもしれません。

もう、ワールドスタイルダンスを理解されている。

というよりも、

ワールドスタイルダンスという名前を知らなくても、その大切なところを、すでに踊っておられる。

そんな気がします。

誰とでも。

どこでも。

上手いとか、下手とかだけではなく。

競技をする人も、しない人も。

デモをする人も、しない人も。

長く、気持ちよく、ダンスを楽しむ。

そして何十年後も、その人が踊っている。

たくさんの人が、ダンスを楽しんでいる。

私のやっていることは、そのための地道な活動なのだと思います。

だから最後は、やっぱりこの言葉でいいのかもしれません。

笑顔で、

踊りましょう。

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